「価値判断のできる人間が枯渇したこと」これが日本の危機【中野剛志×適菜収×小池淳司〈第3回〉】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「価値判断のできる人間が枯渇したこと」これが日本の危機【中野剛志×適菜収×小池淳司〈第3回〉】

神戸大学工学部100周年記念学内シンポジウム鼎談《第3回》【中野剛志×適菜収×小池淳司(神戸大学工学部長)】

 

■「感性」より「理性」を過信した結果が、今の日本

 

小池:ありがとうございます。お二人のお話は、教育を理性的にコントロールできるかどうか。つまり、目標を決めて到達できるものであるということに非常に懐疑的であるということだと思います。こういう人材はこうやれば育つとか、あるいは、できなければ許さない、みたいなことが現代社会のいろいろな社会問題にもつながっているのだと思います。もうちょっとおおらかに時間をかけて、人間の感性に従った教育ができれば、ホントは理想ですよね。ここは異論がないところかと思います。

 僕が気になっていたのは、お二人の思想的な話を聞いていると人間の感性より理性のほうが勝るということを恐れているわけですよね。人間は感性、感覚みたいなものが本来であり、それを表面的なもので説明できるという過信が、近代と呼ばれるものであると。この近代というものも、僕の理解では、科学技術の進展にすごく影響をうけてきたと思います。産業革命以降でもいいですし、ここ30年間の日本の雰囲気も含めて、近代社会は理性ですべて社会をコントロールできるという感じがします。これは科学技術の進歩に非常に影響されていると思うんです。この科学技術は、なんとなく進歩的でどんどん、いいものができているというようなイメージがあります。

 では、これからの工学教育ことを考えると、今後、思想の面から科学技術へ示唆をいただきたいなと思うんです。というのも科学技術もそう安泰ではないからです。このままずっと発展していくかというとそうではないと思うんです。技術はより細分化され、専門はより特化するようになってきていて、全体を見渡す俯瞰的な技術者が枯渇する。たぶん、近い将来起こりうるんですね。

 たとえば、工学部の現場でも、AIとか、DX(デジタルトランスフォーメーション)とかIOT(様々な「モノ」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組み)とか、こういったもので、本当に職人的な技術など大事なものが失われつつある。つまり、人間の感性や職人の技術が忘れ去られていくことになるという危機感を覚えています。それに対して、大学の工学部がこの社会の風潮に踊らされない、伝統や暗黙知のようなものを維持するために抗わなければいけないと思うんです。そして、このような状態が続くと本当の危機を迎えたときにコントロールできなくなると思うんです。巨大なシステムになればなるほど見落としがあるかもわからない。まずは適菜さんからそのあたりのお話をいただけたらと思います。

 

適菜:少し話が脱線するかもしれないんですけど、最近、AIって意外にバカだなあって思ったことがありました。安倍晋三主催の「桜を見る会」にサントリーが酒を無償で提供していたことが問題になりましたよね。その件について、サントリーを批判しているツイートがあったんです。「もうサントリーの商品は買わない」みたいな。で、その下にサントリーの広告が出ていたんです。AIがサントリーって言葉だけをピックアップして広告をつけたのだと思うんですけど。それを見たらまだ人間はAIに勝てるかなと思いました。

 科学技術がこれから先に行き詰まるんじゃないかという危機感は、近代社会がこの先、行き詰まるのではないかという危機感と似ていますよね。そして実際に行き詰まっているわけです。でも、歴史は行き詰ったり、また元に戻ったりもする。あるいは大国が衰退したり、滅んだりという話はザラにあることです。だから、右肩上がりに進んでいくという歴史観のほうがおかしいのだと思います。本来、大学って、そういう発想に抵抗する、反抗する場なのではないかという話は先ほどしましたが、そういう薄っぺらな合理主義者が、大学であったり、国の中枢に食い込んでしまっているということだと思います。たかだか200年、長く見ても400年の近代ではなくて、大学は人類の長い歴史に根差すべきだとは思います。

 

小池:適菜さんとふだんしゃべっていて、僕も言うんですけど、大学において民間企業経営手法を導入するというのが進んできたんですね。簡単に言えば、自己責任と短期的成果主義みたいなものです。そうすると大学の組織は何も考えなくなるし、そういった大学だけになると、大学の問題だけではなくなって、社会全体においても重要な機能が失われていく。そういうことにみんなもうちょっと目覚めたほうがいいと思うんです。

(鼎談第4回へつづく)

 

<登壇者プロフィール>

 

中野剛志(なかの・たけし)

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)など。『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』、『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』、『楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室』(KKベストセラーズ)は大ロングセラー中。また適菜収との共著『思想の免疫力』(KKベストセラーズ)もある。最新刊は『奇跡の社会科学 現代の問題を解決しうる名著の知恵』(PHP新書)が絶賛発売中。

 

適菜収(てきな・おさむ)

作家。1975年山梨県生まれ。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、『安倍でもわかる政治思想入門』『安倍でもわかる保守思想入門』『国賊論 安倍晋三と仲間たち』、『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』、中野剛志との共著『思想の免疫力』(以上、KKベストセラーズ)、『ナショナリズムを理解できないバカ』(小学館)、『コロナと無責任な人たち』『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)など著書50冊以上。最新刊は『日本をダメにした B層の研究』(KKベストセラーズ)が絶賛発売中。「適菜収のメールマガジン」も配信中 https://foomii.com/00171

 

小池淳司(こいけ・あつし)

神戸大学大学院工学研究科長。1992年岐阜大学工学部土木工学科卒業。1994年岐阜大学大学院工学研究科博士前期課程修了(土木工学専攻)。岐阜大学助手。1998年長岡技術科学大学助手。1999年博士(工学)(岐阜大学)。2000年鳥取大学助教授。2007年鳥取大学准教授。2011年神戸大学大学院工学研究科教授。主な著書に、『ようこそドボク学科へ!』(学芸出版)、『Policies to Extend the Life of Road Assets』(International Transport Forum,OEC)、『社会資本整備の空間経済分析』(コロナ社)、『インフラを科学する波及効果のエビデンス』(中央経済社)、『価値創造の考え方:期待を満足につなぐために』(日本評論社)などがある。

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